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名古屋地方裁判所 昭和40年(ワ)2161号 判決 1966年4月28日

主文

被告は、原告に対し、金三二〇万五八四〇円及びこれに対する昭和四〇年九月五日以降支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金八〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、第二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、被告会社の代表者代表取締役である深尾四郎は、かねてより三栄電機商会なる名称のもとに電機製品の小売販売業を営んでいた。尤も三栄電機商会の経営名義人は右深尾四郎の妻である訴外深尾鈴子であつたがそれは形式上のものに過ぎず、三栄電機商会の実質上の経営者は右深尾四郎であつて、殊に同人が昭和三一年八月それまで勤務していた中部電力株式会社を退社してからは名実ともに三栄電機商会を経営してきたものである。

二、しかるところ、同人は個人経営による電機製品の小売販売業を廃止して、昭和三四年一月六日右小売販売業を営む株式会社である被告会社を設立した。

三、ところで、電機製品の製造卸売販売を業とする株式会社である原告は、被告会社が設立されるまでは三栄電機商会こと深尾四郎と電機製品の取引をなしてきた。そして原告は、被告会社設立当時において、同人に対し金二六五万四〇〇八円の売掛代金債権を有していたが、被告会社は設立と同時に同人の原告に対する右債務を引受けた。

四、仮りに、被告会社が被告会社設立と同時に同人の原告に対する右債務を引受けなかつたとしても、被告会社は、次記のとおり昭和三六年四月三日原告に対し金四〇七万九六一二円の電機製品買掛代金債務が残存していることを確認した際、同人の原告に対する右金二六五万四〇〇八円の買掛代金債務を引受けた。

五、次に、原告は、被告会社設立後は被告会社と毎月二〇日締切翌月二〇日支払の約にて電機製品の取引をなしてきたが、昭和三六年四月三日、被告会社は原告に対し、被告会社が引受けた右金二六五万四〇〇八円の買掛代金債務及び被告会社が設立後同日までに原告より買掛けた電機製品買掛代金債務のうち同日現在において金四〇七万九六一二円の債務が残存し且つその支払義務があることを確認した。

六、而して、原告は、同月四日以後も右同様被告会社と電機製品の取引をなしてきたが、昭和四〇年三月二〇日現在において、被告会社の引受けた右記債務及び被告会社の電機製品買掛代金債務のうち金三二〇万五八四〇円が残存しているが、被告会社はその支払をしない。

七、そこで、原告は、被告に対し、右金三二〇万五八四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四〇年九月五日以降支払済みに至るまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。と述べ、

立証(省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

一、請求原因第一項の事実中、訴外深尾鈴子が被告会社代表者代表取締役である深尾四郎の妻であることは認めるが、その余の事実は否認する。三栄電機商会の経営者は深尾四郎ではなく訴外深尾鈴子であつた。

二、請求原因第二項の事実中、被告会社が昭和三四年一月六日設立された電機製品の小売販売を業とする株式会社であることは認めるが、その余の事実は争う。

三、請求原因第三項の事実中、原告が電機製品の製造卸売販売を業とする株式会社であること以外の事実は否認する。原告と電機製品の取引をなしてきたのは深尾四郎ではなく訴外深尾鈴子である。従つて被告会社設立当時原告に対し金二六五万四〇〇八円の買掛代金債務を負担していたのは同訴外人である。

四、請求原因第四項の事実は否認する。

五、同第五項の事実中、被告会社が設立後原告と原告主張どおりの電機製品の取引をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。尤も、被告会社代表者代表取締役深尾四郎において昭和三六年四月三日被告会社が同日原告に対し金四〇七万九六一二円の買掛代金債務を負担することを確認する旨の覚書(甲第一号証)に署名捺印したことはあるが、それは右深尾四郎において内容を深く検討せず漫然と署名捺印したものであるからなんらの効力を生じない。が仮りになんらかの効力を生ずるとしても無い債務を確認したところで新に債務が生ずるものではない。

六、請求原因第六項の事実中、原告が昭和三六年四月四日以後も被告会社と電機製品の取引をなしたことは認める。又、被告会社が昭和四〇年三月二〇日現在において原告主張の金額金三二〇万五八四〇円から原告が債務を引受けたと主張している金二六五万四〇〇八円を控除した金五五万一八三二円の買掛代金債務を負担していたことは認めるが、その余の事実は否認する。と述べ、

(立証省略)

理由

原告が電機製品の製造卸売販売を業とする株式会社であることは、被告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなす。又、訴外深尾鈴子が被告会社代表者代表取締役である深尾四郎の妻であること、被告会社が昭和三四年一月六日設立された電機製品の小売販売業を営む株式会社であること、は当事者間に争がない。

そして、甲第一号証中の被告会社代表取締役社長深尾四郎の署名捺印の成立については当事者間に争ないところ、被告会社は右深尾四郎において深く内容を検討せずに漫然と署名捺印したものである旨主張し、これに添う被告会社代表者深尾四郎本人尋問の結果があるがこれは措信し難いから、右作成部分については真正に成立したものと認むべく、その余の作成部分につき成立に争のない甲第一号証、成立に争のない甲第二号証の一、証人木村直喜の証言及び被告本人尋問の結果(但しいずれも左記認定に反する部分を除く)を綜合すると、訴外深尾鈴子は昭和二九年九月頃愛知県愛知郡鳴海町字雷三番地の九において三栄電機商会の名称で電機製品の小売販売業を営むに至つたこと、同訴外人の夫である深尾四郎(このことは当事者間に争がない)は同訴外人が個人営業として営む右小売販売業を会社組織で営むことを決意し、自己が中心となつて昭和三四年一月六日被告会社を設立し、自ら代表取締役社長に就任したこと、従つて被告会社は実質において右三栄電機商会を会社組織にあらためたに過ぎない会社であること、原告は同訴外人の右三栄電機商会経営中三栄電機商会こと深尾四郎と毎月二〇日締切翌月二〇日支払の約で電機製品の取引をなしてき、被告会社設立当時において同人に対し金二六五万四〇〇八円の売掛代金債権を有していたこと、被告会社はその設立の頃原告に対し同人の原告に対する右買掛代金債務を引受けた上、原告と右同様の取引をなしてきたこと(被告会社がその設立後原告と右同様の取引をなしたことは当事者間に争がない)、昭和三六年四月三日被告会社代表取締役社長深尾四郎は原告(会社)名古屋機器営業所々長木村直喜に対し、被告会社の買掛代金債務及び右引受けた買掛代金債務のうち同日現在において金四〇七万九六一二円の債務が残存していることを確認したこと、が認められる。証人木村直喜の証言及び被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。尤も右認定に反するかの如き成立に争のない甲第二号証の一七があるが、証人谷口俊夫の証言によれば、同号証記載の金額には差引くべき五〇万円余の金額を差引くことなくその儘記載したものであることが認められるから、同号証も右認定をくつがえすに足る証拠とはならない。

而して、被告会社が同月四日以後も原告と電機製品の取引をなしたことは当事者間に争ないところ、被告会社が原告主張の買掛代金債務金二六五万四〇〇八円を引受けなかつたとしたならば、被告会社が昭和四〇年三月二〇日現在において原告に対し金五五万一八三二円の電機製品買掛代金債務を負担していたことは当事者間に争ないところ、被告会社が深尾四郎の原告に対する電機製品買掛代金債務金二六五万四〇〇八円を引受けたことは右認定のとおりであるから、被告会社は同日現在において原告に対し金三二〇万五八四〇円の買掛代金債務(引受にかゝるものを含む)を負担していたものと言うべきである。

しかるところ、被告会社が右金員を支払つたことについては被告会社の主張立証しないところであるから、被告会社は原告に対し、右買掛代金債務金三二〇万五八四〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年九月五日以降支払済みに至るまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あるものと言うべきである。

そこで、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

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